まじめに働くあなたへ。頭のネジを外してアホになれる場所をおしえます。

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都会でまじめに働くあなたへ

毎朝、満員電車で出勤して、人手不足で余裕なく働いて、週末は終わらなかった仕事を家に持ち帰っているあなたへ。心が壊れる前に、ちょっと現実から逃げよう。ちゃんとした大人としてやるべきこと、求められる役割から、思い切って離れる時間が必要だ。

温泉や自然に癒される旅もいい。でも、会社のために、家族のためにと、いつも自分を後回しするあなたは、「頭のネジを外してアホになる旅」を優先すべきだ。まじめでしっかり者だから、一度、頭の中を空っぽにしてスッキリしてほしいのだ。

今は新年度が始まったばかりで、旅行ための休暇なんてすぐには取れないかもしれない。それなら夏休みの旅を今から計画しよう。会社にスケジュールを押さえられる前に、手帳に書き込んで、飛行機と宿も予約してしまおう。

行き先は、四国・徳島だ。あなたは知っているだろうか。実は徳島では、毎年お盆休みに100万人以上が頭のネジを外すたいへんな祭りが開かれている。阿波踊りだ。

徳島の阿波踊り

徳島の阿波踊り

阿波踊りは徳島伝統の盆踊りだ。全国に根強いファンがおり、東京の高円寺や埼玉の南越谷など関東地方でもにぎやかな夏の風物詩として有名になった。今や徳島発祥だと知らない人もいるほどだとか。

心浮き立つ2拍子の鉦(かね)のリズムにのって、ダイナミックに躍動する男踊りと、ヘルシーな色気を漂わせるしなやかな女踊り。暑い夏の夜、年に4日だけ、街は特別な熱気に包まれる。

青森ねぶた祭り、岸和田だんじり祭り、高知よさこい祭りなど、日本の夏を彩るすばらしい祭りは全国に数多ある。その中でも、あなたが阿波踊りに行くべき理由は一つ。阿波踊りは、誰でも踊りに参加できるからだ。衣装も、道具も、練習も、参加費もいらない。あなたが望みさえすれば「アホ」、いや「阿呆(あほう)」になれることを、徳島で生まれ育った私が保証する。

踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損、損。あまりにもベタだが、阿波踊りの魅力はこの言葉に尽きる。

とはいえ、自分がやったこともない(ひょっとすると見たこともない)踊りを人前で踊るなんて、今のあなたには想像できないだろう。大丈夫、到着していきなり踊り出す観光客など、まずいない。それでも祭りがクライマックスを迎える夜10時には、老若男女が「ヤットサー、ヤットサー!」と叫びながら、満面の笑みで下手な踊りを踊っているのである。あなたもこうなる。

踊る阿呆

踊る阿呆

では、あなたはどのように阿呆になっていくのか、シミュレーションしよう。

まず、徳島に到着して、祭りのために大規模な歩行者天国となった中心市街地に近づくにつれて、あなたは聴覚から別世界に誘われる。腹の底に響く大太鼓、くせになるメロディーを奏でる笛、鋭い音と正確なリズムコントロールで踊りのテンポを操る鉦。これらの「鳴り物」の音だ。

阿波踊りは、「連(れん)」と呼ばれる踊りのチームごとに鳴り物集団がいるため、祭りの夜は街のいたるところで同時多発的に奏でられる鳴り物の音が混じり合い、独特の響きが夜空に充満する。もしこれがすべてスピーカーから流れる音楽なら、うるさくてたまらないだろう。しかし、和楽器が織りなす祭りの喧騒は不思議と心地よく、さっきまで現実世界にいたあなたをにぎやかに歓迎してくれる。

夕暮れ

夕暮れ

踊り見物は、特設会場のスタンド席でじっくり見るのもいいが、街を歩けばそこかしこでゲリラ的に繰り広げられる踊りも捨てがたい。いわば路上ライブのようなもので、踊り子との距離が近く、迫力、光る汗、張り上げる掛け声を間近で味わえる。

踊り子は、平日の仕事や学校が終わった後にアスリートのようにハードな練習を積んで、夏の本番に臨む。彼らの熱の入れようといったら、祭りの4日間が終わるとセミのようにコロッと逝ってしまうのではないかと心配になるほどである。

祭り本番

祭り本番

大音量と高速テンポで踊りを煽る鳴り物と、狂ったように飛び跳ねる踊り子。見ているあなたは、自然と手拍子を打ったり、踊り子をうちわで扇いだりして、応援に熱が入る。踊り子の体力が限界を迎える直前、鳴り物が最高潮に盛りがったところで、お決まりのリズムで踊りが締めくくられる。その瞬間、あなたはワッと歓声を上げ、惜しみない拍手を贈る。

ここまでくれば、もうあなたは踊り子の気持ちとシンクロして、自分も踊りたい気持ちが湧き上がっているはずだ。徳島名物のすだち酒でも飲んでいい気分になっていれば、そのまま観光客も入れる路上の輪踊りに飛び込めばいい。

それでも踊り方が分からなくて二の足を踏むなら、「にわか連」の練習に参加するのがおすすめだ。あなたと同じように、まだ阿呆になる勇気がない、でも阿呆になりたい、という阿呆志願者が集まり、基本的な踊り方や定番のコール・アンド・レスポンスをレクチャーしてもらえる。祭りの最中に開催されており、もちろん無料、申し込み不要。

練習といっても、まじめにやる必要は一切ない。「手をあげて、足を運べば阿波踊り」という言葉がある通り、阿波踊りに振り付けなんて存在しないのだ。熟練の踊り子たちの動きも振り付けではない。抑え切れない熱いエネルギーが体を突き動かしている。

それに、子どもの頃から阿波踊りを見続けてきた私から言わせてもらうと、観光客で上手く踊る人はまずいない。あなたが踊りの仕上がりを気にしたところで、目くそ鼻くその話である。誰も笑わない。

演舞場

演舞場

簡単な練習を終えたら、いよいよあなたが主役になる時だ。にわか連は、両脇にスタンド席がそびえ立ち、眩しいライトで照らされた特設会場に踊り込む。大勢の観客が待ち受ける中に、有名連の鳴り物を引き連れて、あなたが登場するのだ。

リズムに身を委ね、「ヤットサー、ヤットサー!」と叫ぶ。上げっぱなしの腕が痛くなっても、会場を踊り抜けるまで決してやめてはいけない。最後まで徹底してこそ、立派な阿呆になれるのだ。

大汗をかいて踊りきったあなたは、仕事や家族に自分の時間を捧げ続けてきた過去のあなたとは、まったくの別人になっているはず。さあ、今年の夏は徳島の暑い夜に逃げよう。

 

 

 

まっちゃん.
こんにちは。まっちゃん.(@futtekonai)です。

いつもと違うテイストでお読みいただきましたが、これは天狼院書店メディアグランプリ用に書いた原稿でした。

が!Web掲載の選考に落選…。

今後の糧にしようと思う一方、今、自分の中で書かずにいられないと思ったテーマだったので、自分のブログに掲載することにしました。

ここまでは、いわば「A面」です。

この先は、徳島出身・東京在住の私がどんな気持ちでこの文章を書いたか、「B面」をお話しさせてください。

私が阿波踊りをリスペクトするまで

私は、四国・徳島で生まれ育ちました。阿波踊りは子どもの頃から夏に欠かせないイベントです。

県外に出た大学時代は、趣味の吹奏楽でコンクール前の追い込み練習があり帰省が叶わず、踊りが恋しかったのを覚えています。

大学卒業後に徳島のテレビ局で報道記者となってからは、毎年カメラマンと一緒に汗だくになって取材しました。

阿波踊りの連(れん:踊りのチーム)に入って本格的に踊った経験はありませんが、阿波踊りが好きで、故郷の自慢です。

 

ぶっちゃけ、記者になった当初は、有名連の踊りの違いとか名人の名前とか、全然知りませんでした。

ただ「きれいだな」とか「自分の故郷の踊りだから好き」というレベルでした。

阿波踊りへの見方が変わったきっかけは、先輩ディレクターたちが踊り子に密着するドキュメンタリーを毎年作っていたことです。

本番の何ヶ月も前から踊り子の生活や練習を追った映像を見るうちに、そのストイックさ、狂い方、技術の高さ、4日しかない本番の輝きに衝撃を受けます。

踊り本番のために積み重ねられたものを知って、踊り子を尊敬するようになりました。

 

男踊り

男踊り

観光客にも阿波踊りの魅力を教えてもらいました。

ある年、踊り期間中に街に出て観光客にインタビューすると、大興奮しているパリピのお姉さんが大興奮でマイクにかぶりつき、こうと叫んでくれました。

「だんじりより、ねぶたより、阿波踊り!!」

全国の有名なお祭りより、こんな田舎の阿波踊りがいいと言ってもらえるなんて、と驚いたのと同時に、

徳島県民としてめちゃくちゃ誇らしかった。

たくさん取材した中でも、忘れられない瞬間です。

大人になり、阿波踊りの新しい魅力に気づいた

踊る阿呆

踊る阿呆

アラサーになり、大学時代の友人たちが阿波踊りに遊びに来てくれた時は、大いに盛り上がりました。

お酒を飲んで街に繰り出し、みんなで路上の踊りの輪に飛び込んで、知らない人と肩を組んで記念撮影して。

それぞれまっとうな社会人だけど、この夜ばかりは子どものように弾けました。

 

それに、3年前から東京に住むようになって、新しい気づきもありました。

人口が密集する都会には、多彩な仕事や24時間便利な生活がありますが、その一方でストレスは想像以上に多いです。

働きすぎて、自分を置き去りにして、いつのまにか心身ともに疲れ切ってしまった人がゴロゴロいることを知り、

「現実世界で抑圧された自分を解放して、本来の自分を取り戻したい」というニーズはとても高いと感じました。

それなら、阿波踊りが一つの「解放スイッチ」になるんじゃないかと思ったのです。

「よそ者目線の阿波踊りの価値」が、実感をもってわかりました。

 

都会で頑張る「あなた」に元気になってほしくて

この記事は、都会でちゃんとした大人をやっている「あなた」に向けて書きました。

実は「あなた」は実在の人物がモデルです。私が知っている、東京で働くアラサーのワーキングマザーです。

彼女のイメージは、聡明で、優秀で、やわらかで、家庭的。

しかしある日、仕事と家庭の両立に疲れ切っている様子をSNS上で見かけて、なんとかこの人に元気になってほしい、と胸がキュッと苦しくなりました。

そんな彼女に手紙を出すようなイメージで書きました。

男踊り

男踊り

この記事は、徳島と東京という2つの場所から阿波踊りを見つめた私の、32年間の「阿波踊りへのリスペクト」の集大成です。

さらに、都会でまじめに頑張る人へのエールをリンクさせて、私が信じている阿波踊りの価値(=自分解放スイッチ)を書きました。

阿波踊り「中止の危機」

そんな阿波踊り(徳島市の阿波おどり)は、今年、累積赤字問題が深刻な局面を迎えています。

一部報道では「中止の危機」とまで書かれました。

(徳島市が新たに実行委員会を立ち上げる見通しで、「中止」にはならないと信じているのですが)

東京にいると、ネット検索で出てくる情報は少ない。詳しい情報はわからず、やきもきするばかり。

そんな時、これまで公式PRポスターを手がけてきたコピーライターの新居篤志さんグラフィックデザイナー藤本孝明さん自主制作でポスターを作ったというニュースを知ります。

>>「阿波踊り運営混乱に危機感 徳島市の新居さんらポスター自主制作」|徳島新聞

2人は2011年から7年連続で、公式ポスターを制作。協会から委託料を受け取って制作してきたが、今回は無償でのポスター作りだ。新居さんは「依頼がないから、と黙っているのも違うと思う。阿波踊りは市民の祭りで、仕事を超えた思いがあった」と話す。

引用元:「阿波踊り運営混乱に危機感 徳島市の新居さんらポスター自主制作」|徳島新聞

このニュースを見て、「あ、私も阿波踊りのこと書きたい」と触発され、

混迷を極める阿波踊り騒動を、一般市民は指をくわえて見るしかないという、モヤモヤした気持ちをぶつけました。

ちびっ子踊り子

ちびっ子踊り子

この夏、一人でも多くの方に阿波踊りにお越しいただけますように。

そのために、今年も阿波踊りがちゃーんと開かれますように、神様仏様実行委員会様、何卒よろしゅうおたのんもうしあげます。

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天狼院書店メディアグランプリに記事が掲載されました!

2018年4月6日
更新情報はTwitter【@futtekonai】でお知らせ!

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【火曜21時更新】33歳女2人で約15分の音声配信「しもってラジオ」をはじめました!|趣味はゆるく映画鑑賞。今年の目標は毎月新作1本・旧作10本。劇場・WOWOW・地上波で観た作品についてつぶやきます|本業はインタビューライティングとWebメディアディレクション